☆相続人となる者の範囲及び法定相続分の割合は、被相続人の死亡した時期によって異なるか☆
被相続人の死亡した時期によって、相続人になることができる者やその法定相続分の割合は変わるのでしょうか。
答えはYesです。
なぜなら、被相続人の死亡した時に効力を有していた民法が適用されることになり、その民法はこれまで何度も変更されているからです。
適用される民法は以下のとおりです。
被相続人の死亡した時期 |
適用される法 |
① 明治31年7月16日~昭和22年5月2日 |
旧民法 |
② 昭和22年5月3日~昭和22年12月31日 |
応急措置法 |
③ 昭和23年1月1日~昭和55年12月31日 |
新民法 |
④昭和56年1月1日~現在 ア.昭和56年1月1日から平成13年6月までに開始した相続 イ.平成13年7月1日から平成25年9月4日までに開始した相続 ウ.平成25年9月5日以降に開始した相続 |
改正新民法
|
被相続人の死亡した時に効力を有していた民法が適用されることになりますので、
例えば、「昭和22年12月31日に亡くなった者の財産を相続したい」という場合には、応急措置法が適用されますし、「昭和50年1月1日に亡くなった者の財産を相続したい」という場合には、新民法が適用されることになります。
では具体的に、それぞれの時期において、誰が相続人になり、法定相続分の割合はどうなるのかということについて見ていきましょう。
①旧民法(明治31年7月16日~昭和22年5月2日)
この時期は「家制度」を採用しており、相続は、
(1)戸主が死亡したときに、戸主権という身分権と家の財産(戸主名義の遺産)とを全て承継する「家督相続」及び
(2)戸主以外が死亡したときの「遺産相続」
の二本立てになっているのが特徴です。
(1)「家督相続」
家の財産は戸主に属するものとされていたため、前戸主名義の遺産はすべて一人の家督相続人が承継します(単独相続)。
家督相続人になる者の順位は以下のとおりです。
((例)第一及び第二順位の者が存在しない場合に、家族の中の一定の者の中から選定することになります。)
順位 |
法定相続人 |
第一順位 |
法定の推定家督相続人(家族たる直系卑属) (なお、家族たる直系卑属の中でも、以下のとおりさらに優先順位が付けられています。 ① 異親等間では、親等の近い者が優先されます。例えば、戸主の子と孫がいた場合、子が優先されます。 ② 同親等の男女間では、男が優先となります。したがって長男と長女では、長男が優先することになります。 ③ 同親等なら、嫡出子が優先されます。 ④ 同親等の男女がいる場合、女であっても、嫡出子及び庶子(父の認知のある子)が優先されます。 ⑤ 上記①から④までが全て同じ者同士の場合、年長者が優先されます。) |
第二順位 |
指定の家督相続人(相続開始前に戸籍吏に対して、家族や他家の戸主を指定する届け出を行う) |
第三順位 |
選定の家督相続人(第一種) (相続開始後に、家族の中の一定の者の中からその家に在る被相続人の父、母、親族会が選定する。) |
第四順位 |
尊属家督相続人 (同じ家の直系尊属) |
第五順位 |
選定の家督相続人(第二種) (同じ家族に限らず他家の親族や他人から親族会が選定) |
(2)「遺産相続」
戸主以外が死亡したときには「遺産相続」となり、単独相続ですが、その順位は
以下のとおりとなります。
((例)直系卑属がいれば当該直系卑属が全て相続し、いなければ配偶者が全て相続します。)
順位 |
法定相続人 |
第一順位 |
直系卑属 (なお、非嫡出子の相続分は、嫡出子の1/2である。) |
第二順位 |
配偶者 |
第三順位 |
直系尊属 |
第四順位 |
戸主 |
②応急措置法(昭和22年5月3日~昭和22年12月31日)
旧民法上の家督相続に関する規定が適用されなくなり、遺産相続に関する規定のみになりました。
単独相続ではなく共同相続となり、順位及びその法定相続分は以下のとおりです。
((例)直系卑属がいない場合には、配偶者と直系尊属が2分の1ずつの割合で相続します。)
順位 |
法定相続人及びその法定相続分 |
第一順位 |
配偶者:3分の1 直系卑属:3分の2 |
第二順位 |
配偶者:2分の1 直系尊属:2分の1 |
第三順位 |
配偶者:3分の2 兄弟姉妹:3分の1 (なお、兄弟姉妹には代襲相続はありません。) |
③新民法(昭和23年1月1日~昭和55年12月31日)
順位及びその法定相続分は以下のとおりです。
((例)直系卑属がいない場合には、配偶者と直系尊属が2分の1ずつの割合で相続します。)
順位 |
法定相続人及びその法定相続分 |
第一順位 |
配偶者:3分の1 直系卑属:3分の2 |
第二順位 |
配偶者:2分の1 直系尊属:2分の1 |
第三順位 |
配偶者:3分の2 兄弟姉妹:3分の1 (なお、兄弟姉妹の直系卑属は代襲相続人となります。) |
④改正新民法(昭和56年1月1日~現在)
順位及びその法定相続分は以下のとおりです。((例)直系卑属がいない場合には、配偶者が3分の2、直系尊属が3分の1の割合で相続します。)
順位 |
法定相続人及びその法定相続分 |
第一順位 |
配偶者:2分の1 直系卑属:2分の1 |
第二順位 |
配偶者:3分の2 直系尊属:3分の1 |
第三順位 |
配偶者:4分の3 兄弟姉妹:4分の1 (なお、兄弟姉妹の代襲相続は、その子(被相続人にとっての甥や姪)までとなります。また、父母の一方を同じくする兄弟姉妹(異母兄弟や異父兄弟)は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の2分の1となります。) |
なお、昭和56年1月1日から現在において適用される改正新民法ですが、非嫡出子の相続分については、被相続人の死亡時期によって以下のような差異があります。
ア.昭和56年1月1日から平成13年6月までに開始した相続
非嫡出子(婚姻関係にない男女間に生まれた子)の法定相続分は嫡出子(婚姻成立後その男女間に生まれた子)の2分の1です。
イ.平成13年7月1日から平成25年9月4日までに開始した相続
平成25年9月4日に「嫡出子と非嫡出子との間に相続分の格差があるのは、憲法違反である」とする最高裁判所の判例が出されました。平成13年7月1日以後に開始した相続について、当該判例が出る前に遺産分割が終了した相続に関しては、当該判例の適用はされませんが、遺産分割が終了していなかった場合には、当該判例の適用がなされ、嫡出子と非嫡出子の相続分は同一になります。
ウ.平成25年9月5日以降に開始した相続
嫡出子と非嫡出子の相続分は同一です。
以上のとおり、被相続人の死亡した時期によって、相続人になることができる者やその法定相続分の割合は変わりますので、相続登記を行う際には注意が必要です。
なお、本ブログは大綱を記したものであり、個々のケースによって異なることがありますので、詳しくは当法人にご相談ください。
【参考文献】
髙妻新(2007)『新版 旧法・韓国・中国関係 Q&A相続登記の手引き』日本加除出版株式会社
平成24年(ク)第984号 遺産分割審判に対する抗告棄却決定に対する特別抗告事件 平成25年9月4日 大法廷決定